駒ケ根で生まれ、飯田の染物屋田中家の婿養子となり、後に横浜で糸屋平八商店(糸平)を営んで生糸、為替相場などで大きな財を成した田中平八。彼は渋沢栄一らと東京証券取引所の設立に関わった。この田中平八とはどのような人だったのか、自身も債権ディーラーとして相場を張り、その経験から金融市場を舞台としたベストセラー作品を発表している、作家、幸田真音さんによる講演会が駒ケ根市で開催されたので聴講した。
講演会は、幸田さんが債権ディーラの仕事で身体を壊し、作家に転向した経緯から始まり、相場でリスクを取るには、あらゆる情報を集め、その時々で人々がどのような行動をとるのか人間の心理を読むことの重要性を説明した。その点で田中平八は生糸販売にしても、すべての外国顧客の情勢、ニーズを分析し、品質の良い生糸を先物買いして、当時としてはたいへん大きな倉庫に保管し、相場を見ながら高値で売るというリスクテイカーとしての才覚があったと評した。
▼8/20信毎記事
駒ケ根市は、平八の生涯と偉業を多くの市民に知ってもらおうと、8月を「糸平月間」とし、東京証券取引所の協力を受けて、2021年から毎年、講演会や特別展などを展開している。この企画は渋沢栄一を主人公とた2021年のNHKの大河ドラマ「青天を衝け」にあやかり、駒ヶ根の地域おこしとしてスタートしたようだ。発案者でもある伊藤祐三市長は元共同通信社の論説委員で、大蔵省(現財務省)や日銀、東京証券取引所などを取材をした経験を持つ。そうした経験・知識をバックに、市の経済的飛躍を目指しているようだ。
南信州・飯田というと、行政はなぜか菱田春草や日夏耿之介など、芸術家・文筆家を取り挙げる傾向にあるが、渋沢栄一に、「明治維新当時の財界における三傑は、三井の野村利左衛門と鉱山王の古河市兵衛と天下の糸平こと田中平八を挙げなければならない」と言わしめた商売人がいるのだから、郷土の逸材としてもっと喧伝すべきだ。
実際私もこの年まで「天下の糸平」についてまったく知らなかった。さらにネットで糸平について調べてみると、飯田高校の同窓会誌に、川路出身でTV神奈川の社長もされた牧内良平さんが天下の糸平について随筆を寄せていた。それによると当時の横浜での生糸の扱い量は信州産がダントツで、その多くは伊那谷のものだったようだ。その後日本の輸出は工業製品に変わり、今やその工業製品も中国などアジアの新興国にやられている。卓越した相場師の糸平なら、今の日本の状況を見て何を経済の幹に据えていくのだろうかと感じた。
追記:飯田高校同窓会の情報 高田万由子は田中平八の末裔!
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