安倍政権が、東京高検の黒川検事長を検事総長にするため法案改正を先どりする形で定年延長を決めたとされる、「検察庁法改正案」の採決が先送りされた。
検察庁法案改正の反対の世論が強まるきっかけになったのは、元検事総長らの反対意見書や、著名人らのTwitter上で「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿によるものである。
これまで政治的発言をしたことがないような多くの芸能人までもが参加したこの抗議行動の要因の一つは、コロナの自粛要請によって収入が減り、雇用上の不安を強く感じている人々が政府の取り組みに関心を持ち始め、国の対策内容や言動に客観的に不信感を感じ始めているいるからではないだろうか。
一方、主要メディアは、本来なら検察庁法改正案の危うさを主導的に訴えなければならないのに、世論に動かされて、ようやく付和雷同的に問題を大きく取り挙げた感がある。彼らは第三者的な論評は加えるが、決して反対(賛成)表明はしない。また真実や本質を探ろうとしない。こうした報道環境に囲まれている我々は、生活習慣病的に政治に無関心となり、権力の独善的なふるまいを異常とは感じず、「なぜ」と問うこともなくなっていく。しかしこのコロナ禍では、国民全員が”困るっている”状況にあるので、好むと好まざると政治・政権に目を向けるようになる。これはよいことである。
「検察庁法改正案」の採決が先送りされた翌々日の5月21日には、「黒川弘務検事長の辞職」が大きく報道された。緊急事態宣言下の5月1日と13日、黒川氏が読売新聞の記者の自宅マンションで賭け麻雀をしていたことを週刊文春が暴露したためだ。賭け金は少額だそうだが、国家公務員の倫理規程にも抵触する可能性がある問題であり、検察とメディアの関係、とくに戦後から続く「記者クラブ」との関係※はどうなっているのか疑問がわく報道内容である。 ※参考資料:記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題
またこのタイミングで、誰かがあえて黒川氏の賭けマージャンの情報を文春にリークしたわけだが、安倍政権に打撃を与えたいと思っている政界の黒幕や背景はどうなっているのだろうか? それとも安倍政権が意図的に仕掛けたのだろうか? ネット上ではいろいろな憶測が飛び交っているが、次の2つの推論を考えてみた。
仮説としての現状認識(注):
稲田検事総長が、河井克行前法相の事件で、東京の“緊急事態宣言解除”の直後に「逮捕許諾請求」をすると伝えられており、安倍マネーの追及を恐れる官邸は、稲田氏を外そうと画策しているという状況にある。
(注:登場人物として、日本を支配下に置くアメリカの姿が見えないが、アメリカからすれば、小沢や福田など米国寄りでないリーダがいなくなった自民党の総裁は安倍でなくてもよく、コロナ対応で党内外から指示を失いつつある彼に、あえて手を指し伸ばす必要性がないので、沈黙しているのかもしれない。)
推論① 安倍が仕掛けた説 (悪同士のしがらみ関係説)
黒川検事は賭けマージャンの常習犯であり、その弱みを安倍政権に握られていたため、官邸疑惑に対しても安倍の意向に沿った法判断を行い、「官邸の守りが神」として重宝がられてきた。しかし黒川検事の定年延長を狙う検察庁法改正案の成立が難しくなったため、安倍は黒川検事の不祥事を暴露して切り捨て、政権に敵対意識のある稲田検事総長の監督責任を追及し、稲田氏の引責辞任を狙おうとしている。
①については、内田樹さんのtwitter情報からの妄想。米国の事例として、FBI長官を48年務めたアメリカのフーバーは、大統領から議員まで網羅的に醜聞を収集し、それをネタに恫喝して政府内部に隠然たる勢力を形成していったそうである。「醜聞は開示されない限り人を動かす力がある」
僕たちはふつうは前に起きたことが後に起きたことの原因であると推論しますが、今回は違うようです。定年延長と検察庁法案と賭け麻雀を時系列に並べて一覧してもよく意味がわからない。それよりむしろ、「賭博常習癖のある検察官がいる」というところから話が始まったと考えた方がつじつまが合う。
— 内田樹 (@levinassien) May 21, 2020
推論② 検察庁稲田検事総長による安倍政権への反撃説
検事総長人事までに口を出してきた安倍政権に堪忍袋の緒が切れた稲田検事総長が、検察庁法案改正の反対の世論を盛り上げるよう元検事総長らOBに「反対意見書」を依頼した。さらに産経新聞の反体制労働組合=不満分子と共謀して黒川検事の倫理問題を文春にリークし、一気呵成に安倍批判の世論を味方につけて安倍マネーを追求し、退陣に追い込もうとしている。
②については、ビジネス情報誌「エルネオス」の情報スクランブル記事の4月号と5月号の下記の記事を参考に妄想。
■長引く「黒川問題」で揺らぐ検察庁の反撃策は?
http://www.elneos.co.jp/2004sc1.html#Anchor-000
検事は、それぞれが検察権を行使する任務を与えられた独任制官庁である。その強い権限ゆえ統一した見解を持たねばならず、検事総長のもと「一体の原則」が貫かれている。
そこに手を突っ込んできたのが安倍政権で、内閣人事局を通じて各省庁を牛耳ったのと同じ手法で検事総長人事に口を出した。1月31日、黒川弘務東京高検検事長の任期を半年、延ばすことを閣議決定。森まさこ法務大臣の居直り答弁もあり、国会で野党が「検察人事への介入だ」と、強く批判している。
国会論戦は、与野党の駆け引きの側面もあり、いずれ終息するが、問題は「一体の原則」が揺らぐ「法務・検察」の内部である。一体どのような状況なのか。
「稲田伸夫検事総長は、『プリンス』の林真琴名古屋高検検事長を今夏、自分の後任にするつもりで内部の調整を終えていた。それをひっくり返されて面白いハズがない。黒川擁護派は少なく、2年の慣例をすっ飛ばし、自分が留任して黒川氏を退任に追い込むかもしれない」(検察関係者)
官邸が、「稲田じゃダメだ。(総長を)黒川にしろ!」と動いたのは、検察が1月15日、河井克行前法相、妻の案里参院議員の強制捜査に踏み切ったからだ。検事長定年は63歳で、2月8日に誕生日を迎える黒川氏を総長に据えるには、定年延長しかなかった。
秋元司元内閣府副大臣を昨年末、収賄で逮捕し、河井夫妻に手をかけ、次に狙うのが菅原一秀前経産相ということで、「稲田検察」はどこまで政界捜査を続けるのか、という恐れが政権内部に広がった。捜査するのは特捜部など第一線だが、最終的にゴーサインを出し、官邸に報告を上げるのは検事総長。そこで「稲田じゃダメだ」につながったが、黒川氏自身は、「官邸べったり」という評価を気にし、司法記者にはこう漏らしているという。
「俺は、自分の役割をこなしただけ。検事長となってからは秋元捜査をサポートしたし、仮に検事総長になっても自民党政治家の不正が発覚すれば、遠慮なく捜査する」
役割とは、法務省官房長、法務事務次官として、東京高検検事長になるまでの7年半も政界窓口を務めたこと。政界との癒着も仕方がないという言い訳だが、だから「政界捜査ができなかった」(司法記者)という指摘もあり、検察内部に反黒川派が多い理由である。「自分から退任すればいいのに」という批判もある中、黒川氏は居座って稲田氏の禅譲を待つのか。夏まで神経戦が続きそうだ。
■リストラ続く産経新聞社に第2労組結成の動き
http://www.elneos.co.jp/2005sc1.html#Anchor-000
産経新聞社の中に「第2労働組合」という不気味な妖怪が蠢動している。
産経の公称部数は140万部だが、全国紙の中では際立って押し紙の比率が高く、実売は「80万部あればいいほう」(他紙の販売局幹部)という。窮地の産経にあって飯塚浩彦社長の打つ手は、ひたすら人員削減だ。希望退職の募集に加えて地方支局網の統廃合。東京のベテラン記者は全く畑違いの地方支局に飛ばされた。「辞めるのを誘導するような嫌がらせの人事でした。異動が嫌ならば辞めろ、というやり方です」(中堅記者)。中高年記者を中心にこうした不本意な異動が後を絶たないという。
頼みの綱の産経労組は役に立たない。産経労組は1960年に新聞労連を脱退し、経営側と協調する労使協定を締結。一切争議行為を行わない約束を結び、60年代の「産経残酷…」という過酷なリストラ策を唯々諾々とのんだ。そして、すでに飯塚リストラ路線に応じて社員の1割弱の200人が希望退職に応募した。
そして、身の安全を守る防波堤を設けようと、産経記者数人が今、秘密裏に新たな労働運動を模索。不倶戴天の敵である朝日新聞社に昨年、「朝日新聞再生機構」という第2組合ができ、経営側と対峙しているのを参考に「フラクション」づくりが始まっているのだ。
「まだ労組の結成をしたわけではなく、具体的な労使交渉を始めているわけではない。これ以上の不当な嫌がらせが続いた場合、このまま黙っていないぞと信頼できる仲間と話し合いをしているところだ」と関係者。産経の飯塚社長は「リストラしかしない最悪の経営者」(産経記者)と評判は悪い。朝日と産経の戦う労組が手を取る日が近いかもしれない。
さて今後政界はどのように動くのか・・・。
追記:この記事を書いた後、下記のNews記事発見。
安倍官邸が黒川検事長の“賭け麻雀”を悪用、官邸と対立する稲田検事総長に「監督責任で辞職しろ」と圧力! 河井前法相捜査潰しが狙いか
となると、推論①の可能性が高いか?
今、twitterでは、「#稲田検事総長を守ろう」の投稿が急増している。わかっている人は多いのかもしれない。
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